
顧客からの要望や苦情は、企業にとってサービス改善の貴重なヒントです。
しかし、なかには常識の範囲を超え、従業員に過度な負担や危害を与える「不当要求」と呼ばれる行為が存在します。
例えば、暴力や脅迫、執拗な面会強要や誹謗中傷などは、クレームの域を超えた深刻な問題です。
放置をすれば従業員の安全やメンタルヘルスが脅かされ、組織全体の健全性も揺らいでしまいます。
こうした背景から、企業に対してカスタマーハラスメント対策が義務化され、不当要求への明確な対応が求められるようになりました。
しかし、実際に現場では「これは正当な苦情なのか、それとも不当要求なのか」と判断に迷い、対応に苦慮するケースも少なくありません。
そこで、この記事では、不当要求に該当する具体例や判断のポイント、現場でできる実践的な対応策を解説します。
法的措置を検討する際に頼れる専門家や、企業として取り組むべき予防策も紹介しているので、従業員が安心して働ける環境づくりにお役立てください。
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不当要求と一口に言っても、さまざまなケースがあります。
暴力や脅迫のように一目で危険と分かるものもあれば、執拗な要求や侮辱的な言葉など、一見クレーム対応の延長に見える行為もあり、判断に悩むことも。
ここでは、代表的な不当要求の具体例を取り上げて、解説していきます。
不当要求の中でも最も危険なのが、従業員に対して殴る・蹴るといった身体的な暴力を加える行為です。
サービスに不満を抱いた顧客が怒りを爆発させ、手を出すケースは決して少なくありません。
暴力は単に不適切な振る舞いにとどまらず、従業員の生命や身体の安全を直接脅かす行為です。
その場にいた他の従業員や利用者にも恐怖を与え、職場全体の安心感を奪うという点でも深刻な問題といえます。
「言うことを聞かないと殴るぞ」「従わなければ店を潰してやる」などといった脅迫行為も、不当要求の典型例です。
なかには殺害予告や家族への危害を示唆するなど、極めて深刻なケースに発展することもあります。
脅迫は従業員の心理的負担を大きくし、職場環境そのものを不安定にさせる行為といえるでしょう。
「責任者を呼べ」「上司を今すぐ出せ」といった面会の強要も、不当要求にあたる可能性があります。
こうした行為は通常の要望の範囲を超え、従業員に過度なプレッシャーを与えることになります。
また、上司がその都度呼び出されることにより、業務の円滑な進行を妨げることにもつながるため、組織や現場の秩序を揺るがす問題となりえます。
「お前はバカだ」「無能だ」など、人格を否定するような誹謗中傷も不当要求の一種です。
言葉による攻撃は目に見える暴力ではありませんが、従業員の尊厳を傷つけ、心理的に深刻なダメージを与えます。
さらに、公然と従業員の失敗を執拗に責め立て続け、名誉毀損に発展する場合もあります。
このような侮辱的な言動は、顧客対応の枠を大きく逸脱した行為といえるでしょう。
説明を何度行っても納得せず、同じ主張を繰り返し続けるケースも不当要求にあたります。
論点をすり替えたり、揚げ足を取ったりしながら、担当者を非難し続けるのが特徴です。
具体的には以下のような行為があげられます。
このような行為は建設的な解決には進まず、従業員に強い精神的疲労を与えます。
また、他の顧客対応を妨げ、業務時間を過剰に奪う要因にもなるでしょう。
「自宅まで謝罪に来い」「責任者を家に連れて来い」といった訪問の強要も、不当要求の代表的な例です。
顧客対応は本来、企業や店舗などの業務の場で行うべきものであり、従業員がわざわざ私的な場所まで出向くことは業務範囲を逸脱しています。
このような要求は、対応に過剰な時間や労力を費やさせるだけでなく、本来行うべき業務に大きな支障を与えます。
担当者が繰り返し呼び出されれば、精神的な疲労の蓄積から、欠勤や離職につながるリスクも高まるでしょう。
結果として企業全体のサービス提供が滞り、他の顧客への影響にも波及する深刻な問題といえます。
従業員の勤務時間外に尾行したり、帰宅後の行動を監視したりするような行為も、不当要求に含まれます。
こうした行為は従業員の私生活にまで踏み込み、強い恐怖や不安を与えるため、精神的なダメージは計り知れません。
尾行されているという意識から通勤や日常生活に支障をきたし、従業員が業務に集中できなくなるケースもあるでしょう。
深刻な場合は従業員の欠勤や退職につながり、職場全体の人員不足やサービス低下を招くなど、企業にとっても大きな損害を及ぼす問題となります。

不当要求かどうかを見極める際に重要なのは、「要求が正当な顧客の権利に基づいているか」「従業員や企業に過度な負担や危険を及ぼしていないか」という点です。
単なる不満や苦情であれば、誠実に対応すれば解決へ進む可能性があります。
しかし、以下のような特徴が見られる場合は、正当な意見ではなく不当要求と判断できます。
正当な対応を尽くしてなおこれらに該当すれば、不当要求として次の段階の対応に移るべきでしょう。

不当要求に直面したとき、場当たり的に対応してしまうと事態が悪化しやすくなります。
重要なのは、あらかじめ定められた手順に沿って冷静に行動することです。
ここでは、不当要求に対応する流れを解説します。
不当要求への対応であっても、最初から「これは不当だ」と決めつけてしまうのは適切ではありません。
まずは通常のクレーム対応として、顧客の言い分を冷静に受け止めることが重要です。
事実関係を丁寧に確認し、誤解がある場合は正確な情報を伝え、必要に応じて交換や返金といった適切な対応を提示します。
こうした初期対応を誠実に行うことで、正当な苦情であれば解決に至る可能性が高く、企業への信頼も維持できます。
逆に、このプロセスを省略してしまうと、正当な意見まで「不当要求」として扱ってしまい、顧客満足度を大きく損なうリスクがあるため注意が必要です。
最初に通常対応を行っておくことが、後の記録作成やエスカレーションを円滑に進めるための基盤となります。
不当要求に対応する際には、やり取りを「記録」として残すことが非常に重要です。
相手の言動が一時的な感情に基づくものか、執拗に続く不当な行為なのかを判断するためには、客観的な証拠が欠かせません。
具体的には、相手の氏名や連絡先、やり取りを行った日時、発言の内容や態度を詳細に残しておくことが求められます。
また、対応する際には必ず複数人で臨むようにし、発言や行動を第三者が確認できる状況をつくることも効果的です。
さらに、近年では、録音・録画などのツールを活用する企業も増えています。
音声や映像といったデータは、後々の検証や法的手段に進む際に極めて有効な証拠となり得るため、「言った・言わない」の水掛け論を防ぐうえでも重要です。
上記の対応を行なっても、なお過剰な要求や攻撃的な言動が続く場合は、毅然とした態度で「これ以上の対応はできません」と明確に伝える必要があります。
ここで重要なのは、感情的に言い返すことではなく、組織として一線を引いた旨を冷静に示すことです。
あいまいな態度を取ると「強く迫れば応じてもらえる」と誤解され、さらに要求がエスカレートする危険があります。
また、この段階での対応は、単に担当者が場を収めるためではなく、企業として「不当要求は受け入れない」という姿勢を示す意味を持ちます。
こうした姿勢を一貫して示すことで、相手に「この企業には不当要求は通用しない」と認識させ、将来的な再発防止にもつながります。
毅然とした警告を行っても不当要求が収まらない場合には、速やかに上司や専門部署へエスカレーション(段階的に上司に相談すること)します。
具体的には、直属の上司や不当要求対応の責任者に状況を報告し、記録した証拠を共有することが重要です。
また、要求の内容が暴力・脅迫やプライバシー侵害に及んでいる場合は、警察や弁護士といった外部機関への相談を検討する必要もあります。
エスカレーションは単なる報告ではなく、「組織としての防御策」を発動する行為であり、安心して働ける環境を守るために必要不可欠なステップといえるでしょう。

不当要求がエスカレートし、企業だけでの対応が難しい場合には、法的な視点からの対応が必要です。
その際に心強い味方となる専門家として、弁護士や探偵があげられます。
ここからは、それぞれの役割と活用方法について解説します。
不当要求が法的問題に発展する可能性がある場合、頼りになる専門家が弁護士です。
暴力や脅迫、名誉毀損、業務妨害といった行為は、民事・刑事の両面で違法性が問われる可能性があり、企業が独自に判断するのは困難です。
弁護士に相談することで、不当と認められる行為や、揃えるべき証拠といった具体的なアドバイスを受けられます。
また、弁護士は交渉の代理人としても心強い存在です。
裁判の手続きや相手方との対峙などを弁護士が代行してくれるため、従業員の円滑な業務を妨げることなく、法的処置を進められます。
不当要求が長期化したり、相手の素性が不明なまま被害が続いたりする場合には、探偵に相談することが有効です。
探偵は調査の専門家であり、相手の身元特定や行動の記録、証拠収集を依頼できます。
例えば、従業員を尾行して嫌がらせを行うケースや、匿名の相手から脅迫的な連絡が届くケースでは、探偵の調査によって相手の身元の特定が可能です。
また、探偵が収集した証拠は、後に弁護士が法的措置を講じる際の重要な資料となります。
録音や写真、行動記録などの客観的データが揃うことで、被害の深刻さを裏付けられ、交渉や訴訟の場面で強い武器となるのです。

不当要求は、現場の従業員だけで防ぎきれるものではありません。
組織として一貫した方針を示し、日常的に備えておくことが重要です。
ここからは、具体的な対策を順に解説していきます。
企業が不当要求に備える第一歩は、組織としての不当要求に対する方針や姿勢を明確化することです。
具体的には、以下のような点を会社の基本方針に掲げておくとよいでしょう。
これらを社内で共有することで、従業員は「会社が自分を守ってくれる」という安心感を得られます。
さらに、方針を店舗や窓口に掲示すれば、顧客に対しても「この企業では過剰な要求は通らない」というメッセージとなり、不当要求の抑止効果も期待できます。
不当要求への対応で従業員を孤立させないためには、相談体制の整備が不可欠です。
現場で理不尽な要求を受けても、相談窓口がなければ「自分で何とかしなければ」と抱え込み、精神的に追い詰められるリスクが高まります。
そのため、企業内に専門の相談窓口を設け、直属の上司以外にも相談できるルートを確保することが重要です。
例えば、人事部門やコンプライアンス部門、外部の専門機関など、複数の窓口を用意しておけば、従業員はより安心して相談できます。
また、匿名での相談や迅速な対応を可能にする仕組みを整えることで、初期段階から被害を把握し、適切な対応につなげやすくなります。
こうした体制を整えて、従業員が一人で不当要求を背負い込まないようにすることが、企業全体の健全性を守る第一歩といえるでしょう。
不当要求は現場ごとに状況が異なるため、担当者がその場で判断しようとすると迷いや不安が生じやすくなります。
こうしたリスクを避けるには、あらかじめ組織としての対応手順やマニュアルを策定し、従業員全員に周知しておくことが重要です。
マニュアルには、通常のクレーム対応から始まり、記録の取り方、警告の伝え方、エスカレーションの基準まで、一連の流れを具体的に示すことが求められます。
例えば「初回対応は必ず複数人で行う」「一定時間を超えるやり取りは打ち切る」など、実務で活用できるルールを盛り込むと効果的です。
また、万が一暴力や脅迫が発生した場合の通報手順や、法的措置を検討する際の窓口も明記しておくことで、従業員が安心して行動できます。
どれほどマニュアルを整備しても、現場で実際に対応する従業員が知識やスキルを身につけていなければ十分に機能しません。
そのため、従業員への教育・研修を継続的に実施することが不可欠です。
研修では、不当要求と正当な苦情を区別するための基準や、初期対応の基本姿勢などを学ぶことから始めます。
また、ロールプレイを取り入れて実際の場面を想定した訓練を行えば、従業員それぞれが不当要求に対して冷静に対応する力を身につけられます。
不当要求を受けた従業員は、表面上は冷静に見えても、内心では強いストレスや不安を抱えていることが少なくありません。
暴力や脅迫だけでなく、執拗な非難や侮辱でも心理的ダメージは蓄積し、仕事への意欲低下や体調不良、最悪の場合は離職につながる恐れもあります。
そのため、被害を受けた従業員への配慮は、企業にとって欠かせない取り組みです。
具体的には、必要に応じて配置換えや休養の機会を与えるほか、産業医やカウンセラーによるメンタルケアを受けられる体制を整えておくことが効果的です。
また、同僚や上司が被害を共有し、当事者を責めない職場の雰囲気を作ることも重要です。
被害に遭った従業員を孤立させず、組織全体で守る姿勢を示すことで、再び安心して働ける環境を築けます。
不当要求が発生した際は、同じような被害が繰り返されないよう、組織全体で再発防止に取り組むことが必要です。
具体的には、不当要求が発生した際の記録や対応経過を社内で共有し、どこに課題があったかを検証することから始めます。
対応が遅れたのか、エスカレーションの基準があいまいだったのかなどを振り返ることで、マニュアルや研修内容を実態に即して見直すことができます。
また、従業員からの声を積極的に取り入れることで、現場感覚に基づいた改善策を導入しやすくなります。
外部の専門家や労働局などから最新の情報もあわせて収集していくことで、現場の肌感覚と専門家の意見を取り入れた対策を継続的にアップデートしていくことが可能です。
こうした取り組みを繰り返すことで、不当要求に強い組織体制が育ち、従業員が安心して働ける環境を維持できるのです。

不当要求を「仕方のないこと」と放置してしまうと、企業や従業員に深刻な影響を及ぼします。
ここからは、不当要求を放置することで、具体的にどのようなリスクが生じるのかを解説していきます。
不当要求を放置すると、最も影響を受けるのが日常業務です。
執拗な要求や過剰なクレーム対応に時間を奪われることで、本来行うべき接客や事務処理、他の顧客への対応が後回しになってしまいます。
例えば「何度も同じ説明を求められる」「長時間にわたり対応を引き延ばされる」といったケースでは、現場の生産性が著しく低下します。
こうした状況が一時的であればまだしも、対応を放置して繰り返し発生するようになると、不当要求は特別な例外ではなく“常態化した業務負担”へと変わってしまいます。
結果として顧客満足度の低下やサービス品質の不安定化を招き、組織全体の信用を損なう危険性が高まるのです。
不当要求を放置することは、従業員の心身に深刻な悪影響を及ぼします。
暴言や脅迫、過度な誹謗中傷に日常的にさらされると、強いストレスが蓄積し、不眠や食欲不振、集中力低下といった症状が現れることがあります。
精神的に追い詰められれば、うつ病などのメンタル不調に発展するケースも珍しくありません。
また、こうした状態が続けば欠勤が増え、最終的には離職につながるリスクも高まります。
とくに接客やカスタマー対応を担う従業員が退職すると、人員不足によって残された従業員の負担が増し、さらなる悪循環を招く恐れがあります。
従業員の健康と働く意欲を守るためにも、不当要求を軽視せず、早期に対応することが大切です。
不当要求に応じてしまうことの最大の問題は、「一度要求が通った」という前例が定着してしまうことです。
顧客側は「強く出れば譲歩してもらえる」と学習し、次からも同様の行為を繰り返す可能性が高まります。
また、その情報が口コミやSNSで広まれば、他の顧客も同じ手段を用いるようになり、企業にとって不当要求が連鎖的に増加する可能性も否定できません。
さらに、従業員の間で「顧客のために多少の不当要求でも受け入れるべきだ」という誤った対応姿勢が浸透してしまうと、組織全体が不当要求に弱い体質になってしまうでしょう。
誤った企業文化の醸成を防ぐためにも、不当要求に対しては「決して応じない」という姿勢を示すことが極めて重要です。

不当要求は、現場の従業員だけで解決できる問題ではなく、組織としての備えと外部の支援を組み合わせて対応することが求められます。
暴力や脅迫、執拗な嫌がらせといった行為に対しては、社内でのマニュアルや相談体制だけでは限界があるため、弁護士や探偵といった専門家の力を借りることが効果的です。
弁護士は法的観点から適切な対応や抑止力を提供し、探偵は証拠収集や相手の特定によって解決を後押しします。
こうした専門家との連携は、従業員の安全確保や企業の信頼性維持に直結します。
本記事で紹介した具体例や対応手順、企業としての取り組みを踏まえながら、必要に応じて外部の知見を取り入れることで、組織全体で不当要求に立ち向かう力を強化可能です。
従業員が安心して働ける環境を守るためにも、専門家の力を積極的に頼る姿勢が大切です。
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監修者・執筆者 / 山内
1977年生まれ。趣味は筋トレで現在でも現場に出るほど負けん気が強いタイプ。 得意なジャンルは、嫌がらせやストーカーの撃退や対人トラブル。 監修者・執筆者一覧へ
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